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熱闘編

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第二十三回「激突・百万パワーの超戦士達」
1998/09/20
一夢庵
 せつなさウエーブの波動に導かれケイジDの一行は名古屋へとやって来ていた。

 二日酔いで寝込んでいる緑夫を宿に残し、ケイジとDは発信源らしい人物を探そうと街へとくり出した。その最中、ケイジが最近出たスクールリングをどうしてもGetしておきたいと駄々をこね、近くにあった「G.A.スクエア」なるゲームセンターへと入っていった。お目当てのキャッチャーを見つけ早速100玉を積み挑戦するケイジ。最初はつき合っていたDであったが小一時間もするとうんざりして大好きなオラ・タンの前に座っていた。
「うっし!今だ!近接トンファー!!」
「あっちゃー。やられちゃった-。」
 2,3回対戦すると向かいの台にいた対戦者がDに近づいてきた。
「あなたのアファームドBめちゃんこ強いね。わたしがエンジェランで負けるなんてホント久しぶりだもん」
 対戦者は自分と同じ年頃の少女であった。Dはせつなさウェーブの微妙な高まりをその娘から感じた。
「ねぇねぇ、他のヤツで対戦してみない?」
 ボブカットの似合うその少女はDを誘った。
「オラはいいけど....ZERO3で対戦すっか? それともKOFの方がいいか?」
「それもいいけど....」
 少女はDをなめ回すかのように観察し、何か思いついたかのように手を打った。
「そうだ! 名古屋ルールで対戦しない?」
「名古屋ルール?」
「ま、リアルバトルっていった方がわかるかな? ねぇ、やろう!」
 明るい声でで少女は云った
(名古屋ルール.....よくわかんねぇけど...ま、いっか!)
 Dは少女の誘いを受けた。
「やったぁ! 久しぶりだな-リアルバトル。あ、オアン店長ぉ!」
 少女は近くにいた店長らしき青年に何やら頼み込んでいた。
「キミ、ホントに大丈夫? ルリカちゃん結構強いのよ」
 なよなよした感じの色白の店長は心配そうに云った。
「でぇじょぶだ。オラぜってぇ負けねぇ」
 Dがそう云うと店長はマイクを取り出してアナウンスした。
「みんな訊いてぇ! 久しぶりにルリカちゃんに挑戦者があらわれたわよぉ!」
 ゲームをしていた少年達はどよめいた。
「それじゃあ、みんなぁ! 10分後に表の武舞台でGA武道会始めるわよぉ!」
 ゲームをしていた少年達の多くは先を争うようにぞろぞろと表へと出ていく。
「ね、行こう!」
 ルリカと呼ばれたその少女もDの手をひき、少年達に続いていった。
(なんか....格ゲーとはちょっと違うみてぇだな)
 なにかとんでもない勘違いをしたのではないかとDは思っていた。

「みんな、集まったようね! それじゃあ第38回GA武道会始めるわよぉ!」
 栄駅前のセントラルパークにある特設武舞台には大勢の観客が集まっていた。オアン店長はその中央で司会進行をしていた。
「まずはチャンピオン!、只今18連勝中、人呼んで"名古屋の水龍" やまもと る-り-かぁぁぁぁ!!!!」
 呼びかけに応ずるようにルリカは武舞台にあがった
「は-い、みんな。お・ま・た。」
 いつの間に着替えたのかグローブにリストバンドと戦闘スタイルになっていた。
「続いては勇気ある挑戦者、さすらいの戦士少年ディぃぃぃぃぃ!!!」
 Dは頭を掻きながら恥ずかしそうに舞台へあがった。背中に"D"と描かれた赤い道着を着て。
(名古屋ルールって武道大会のことだったのか...おもしれぇ。いっちょやってみっか)
 ひさしぶりの戦いに心躍るDであった。
「ルールは簡単。武舞台から落っこっちゃったり、ギブアップした方が負け。あ、あとダウンしてから10カウントでも負けよん」
 オアン店長は説明した。
「それじゃあ、お二人さん用意はいい? 死なない程度にやってちょうだいね! GAファイト、レディィィィィィGO!!!」
 それが試合開始の合図であった。

 ダッ! 二人は同時に地を蹴った。互いに間合いに入ると激しいパンチのラッシュをくり出した。Dが正拳突きをくり出せばルリカは両手で受け止め、ルリカが右からのハイキックをくり出せばDが左腕で防御する....攻防入れ替わること数回、しかし双方とも決定打を与えるには至らなかった。
「ふーん、なかなかやるね。でも、これをよけられるかなぁ」
「必殺、ルリカ百烈チョ-ップ」
 ルリカは凄まじいスピードでチョップをくり出した(百発/sec)
「うぁっとっとっとっとととぉぉぉぉおおお!」
 Dは右へ左へと必死にかわしたが遂に避けきれずになり舞空術で空へと舞い上がった。
「ふぅ、危ねぇ、危ねぇ」
 上空でDは冷や汗を拭いながら云った
 ふと眼下の武舞台にいるルリカを見下ろした。ルリカは上空のDを見上げながらニヤリと微笑した。ルリカのつま先が地面から少し浮いたかにみえた次の瞬間、ロケットのごとき素早さで空へ浮上しDの高さへと達した。
「へぇ-、おめぇ舞空術まで使えるのかぁ。すげぇなぁ、オラ驚れぇたぞ。」
 Dの言葉にルリカは何も答えず、ただ不敵な笑みを浮かべていた。
「ねぇ、そろそろウォーミングアップは終わりにして本気でやらない?お互いに」
 ルリカは余裕しゃくしゃくであった。Dもまたその申し出を待っていたかのようであった。
「そうだな、じゃあ、いくぞ。ハァァァァァァァァァァアアアアア!!」
 Dは下腹に力を込め、"気"を高め始めた。究極まで"気"の高まったところでDの髪は逆立ち金色へとその色を変えていた。そして全身からもまた、金色に輝くオーラが奔流となっって立ち上がっていた。
「ふ-ん。あなたもなれるんだ。じゃあ、わたしも。」
「フゥゥゥゥゥウウンンンン!!」
ルリカもまた"気"がピークに達した所で変身した。Dのそれと似ているようであったが、ただ髪の色やわき上がるオーラが金色ではなく水色である点で違っていた。

「あ、あれはまさか!! 伝説のスーパーナゴヤ人なの!」二人の様子を双眼鏡で眺めていたオアン店長が叫んだ。
「スーパーナゴヤ人? 何だ、そりゃ? Dのスーパー○イヤ人とは違うのか?」
隣でポップコーンを頬張りながらケイジは訊いた。
「スーパーナゴヤ人.....毎日中日新聞を読みながらエビふりゃ-とういろうを食し、ドラゴンズとグランパスを応援する純粋な名古屋人だけがなれるって聞いたことがあったけど.....まさかルリカちゃんがその域に達してたなんて....オアンぜ-んぜん知らなかった-ん」
「しかも、あの子も同じ様な変身してるじゃない! オアン、ワクワクしてきちゃう」くねくねと悶えながら喜んでいるオアン店長を見てケイジは唖然としていた。

 二つの点が交わりまた離れる。上空のバトルはさらにその熾烈さを増していた。
「たぁっ!」
 空気を切り裂く勢いでDは拳を放つ
『遅いっ!!』ルリカはスウェイバックでかわす。そのまま回転し足蹴りを加える。サマーソルトキック、攻防一体の見事な動き。Dは両手でこれを流し、再び間合いをとった。今度はルリカが仕掛ける。両手から機関銃のごとく気功弾を放つ。大した威力はない。
次の攻撃のための目眩ましだ。Dは防御態勢をとりつつルリカの"気"を探る。
(上っ!!) Dが一瞬早く気づき、ルリカのボディアタックをかわす。
<かわしたっ?! このルリカメテオストライクを?! > ルリカは急上昇しつつ後退し た。
 二人は次の攻撃の隙を伺うべく、しばし動きを止めた。無限とも思われる静寂の時は流れた.... それをDが破る。Dは両手首を合わせ、掌の間に気を集め始めた。
「か-め-○-め----っ!!」
 次の瞬間、Dの姿が消え失せた。
<瞬間移動っ?!.....後ろにっ!>
 ルリカが振り向くとそこにDはいた。
「波ぁぁぁぁぁっ!!」Dのか○はめ波は放たれた。
『ルリカ=フィールド全開っ! 防御!!』
 ルリカは光の渦の中に飲み込まれていった.....

 閃光は消え去った。Dは正面を見やった。そこに......ルリカはいた。しかし無傷であった。
(バリアーか...)
 Dは苦々しく呟いた。
『ふ~。あぶない、あぶない。』
 ルリカは汗を拭った。
『じゃあ今度はわたしの凄いのみせてあげる。』
 間髪いれずルリカは右手の人差し指を天空に突き出し、その先に気を集め始めた。
 指先に徐々に気功弾が形づくられていく。その凄まじいエネルギーに大気は震えた。
 Dはその時感じていた。気功弾から激しいせつなさウェーブがほとばしるのを。
(そうか...。あの娘がセンチストーンの持ち主だったみてぇだな。)
 Dの思考をうち破るようにルリカは叫んだ。
「ルリカ=メチャンコせつなボンバーァァァァ!! シュュュュッ!!!」
 ルリカは青いハート型の気功弾をボールのように投げつけた。Dは素早くかわす。しかしせつなボンバーは執拗にDを追いかけた。
 (操気弾か....)
 Dはルリカがオーケストラの指揮者よろしく手を振って操る姿に気づいた。
<う~ん。彼、速いな。直撃は無理か....じゃあ、今だっ!>
『せつなさっ! 炸裂っ!!』
 Dのすぐ脇でせつなボンバーは青から真っ赤に色を変え、その込められしエネルギーは解放された。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 光の渦は広がりDを飲み込んだ。
 閃光。めくるべく光芒の渦。解放されたエネルギーは高熱を発生し大気を焦がす。おくれて発した衝撃波は足下の街に猛烈な突風を巻き起こした。 
 武舞台の観客達の間に悲鳴が走る。誰もが吹き飛ばされぬよう必死に何かにしがみついていた。

 閃光の膨張は縮まり、やがて何事もなかったかのごとく消え失せた。
 静寂....それだけが名古屋の街を支配していた。
 Dは....生きていた。運良く武舞台の中央に落下していた。Dは手足を動かしてみる。脇腹に激痛が走った。
(どうやらアバラの5,6本、イカレちまったみてぇだな)
 苦痛に耐えDは立ち上がった目の前にはルリカがいた。
「うーん。街のみんなに迷惑かけたくなかったからチョット抑えちゃったけど...  結構効いたでしょう?  どう、降参する?」
「オ、オラまだ負けちゃいねぇ。降参なんかするものか。」
 Dはうめくように答えた。
(ハハッ。そうは言っちまったけど...どうする、どうすればいいんだ...)
 ルリカに勝てる秘策はないか...Dは必死に次の手を考えた。
(誰が続けるのかねぇ、こんな話....)


第二十四回「黒き獣」
1998/10/01
JuJu
「しょうがないなあ、それじゃあこれで終わりだね?」
 ルリカは両手の先に水色のオーラを纏わせた。体内の気がすべて、その白く奇麗な拳に集約される。それはトドメの一撃。今までの気功弾のような派手さはなくとも、一点に集中された力は何倍もの破壊力を持つ事は想像に難くない。
「や、やべえ…!!」
 あれをまともに食らってはただでは済まない。Dはなんとか避けようと体に力を入れるが、次の瞬間激痛に身を捩る。思わず膝をついてしまう。
「があっ!…やっぱりアバラがいっちまってる。このままじゃあ…」
 脂汗をぬぐいながら何とか立ち上がる。しかし、満足に動けるとは思えない。
 見ると、ルリカの気は極限まで高められていた。すべてはその両拳に、最後の容赦無き一撃のために。
「いくよ…」
 南国の海を思わせる、きらめくような美しいウオーターブルーの輝きを纏わせて、ルリカは地を蹴る。
 破壊という名のかわいらしい一矢が、Dめがけて放たれた。
「くう、や、やられる!?」
 Dの目には時がゆっくりと感じられた。迫り来る、ルリカ。その身が放つ水色の光跡がはっきりとわかるほどに。

 終わりなのか…オラはこんなところで終わるのか?まだ、まだ辿り着いていないのに。アイツの所まで辿り着いていないのに!!

『無様だな…』
「!!!」
 Dの意識が暗転する。暗闇の中で、心に直接語りかけて来る声があった。
 それは良く知っている声。忘れ様にも忘れられないものの声。それはDの宿命。この世に生まれ、背負った人としての業。
『まだそんな所を這いずりまわっているのか…。ふふふっ、いつまでそうしているつもりだ?』
「うるせえ!オラはおめえのようにはならねえ!!」
 ぎしり、と心が軋む。この少年には似合わない、黒いものが心を覆っていく。それは憎しみ、悔恨、そして…殺意。
『お前も来い…こちら側へ。そうしないとまた…になるぞ…。愛する者を失うぞ…』
「てめええええ!!ゆるさねえ…手前は、手前だけは…マリスーーーーーーーッ!!!」
 血を吐くような雄叫びに闇が哄笑する。Dの心はもはやいつもの彼では無くなってきていた。
『辿り着いてみせろ…あがいて、あがいて…おれの所…まで…な……』
 Dの絶叫に掻き消されるように、声は霞となって消えていった。後に残ったのはDの意識のみ。闇はさらに濃さを増す。どんどん、どんどん暗くなって行く。Dの意識は落ちていく。深い、深い闇の底へ。

「きゃあっ!!」
 Dに向かって最後の一撃を入れようとしたルリカは、何か見えないものに弾き飛ばされた。
「たたたっ…なに?」
 何が起こったのか?ルリカは自分の目を疑う。さっきまで消え入りそうになっていたDの気が、今までの比ではないほどに膨れ上がっている。しかも、まるで太陽のように燃える熱い金色の輝きから一変して、少年を取り巻く気の質は対極をなす黒く、恐ろしい闇のものになっていた。
「えっ、なに…?いったいなにが…」
 Dの変貌に戸惑う、ルリカや観客達。しかし、その驚愕は終わらない。Dの身に起こっている変化はけして内面的なものだけではなかったのだ。

「がああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!」
 少年の口から発せられたのは、生き物を竦みあがらせる雄叫び。びりびりと空気を震わせるその闘気。もはやいつもの明るい少年の面影はない。…そして変化は訪れた。
 Dの体がふたまわり、いやもっと大きくなっていく。手足は伸び、筋肉は膨張し、服が弾けとぶ。多くの人の驚きの視線の中で、少年は2メートル近くの屈強な戦士の青年へと成長していた。だが、その瞳、その身を包む気は、もはや人と呼べるものではなかった。そこにいるのは一匹の獣。心はすでに憎悪と殺意に塗り尽くされたベルセルク(狂戦士)。

「あああ…」
 ルリカは動けない。その圧倒的なまでの恐怖。今まで自分が戦ってきた相手とはもはや別次元に存在する未知の生物。その狂気の瞳と咆哮に、からだの全てが麻痺してしまった。
 ずずずずっ…とベルセルクDの影から何かが生まれる。それは剣だった。Dの身の丈はあるかと思われるほどの無骨で、巨大な剣。黒くまがまがしい恐怖と破壊をもたらす鉄の塊。
 本当に振れるのか疑わしいその剣をDは無造作に掴む。
 信じられない膂力で振りかぶる。風を巻き上げ、砂塵を散らし、黒の恐怖がルリカへと迫った。
 もはやこれは試合といえる状況ではない。ルリカは逃げようとするが、体に力が入らない。目の前にはもう狂気の戦士が迫ってきている。
 少女の脳裏には過去の記憶がフラッシュバックする。ある少年に嘘をついてしまった自分。きっと彼を傷つけてしまった自分。後悔の思いに苛まれ、いつしか熱くその少年の事を想うようになっていた自分。一言あやまりたかった。自分の想いを伝えたかった。それも叶わぬ願いになるのだろうか?これが彼に嘘をついた罰だというのか?
 いったいどこで想いはすれ違ってしまったのだろう・・・。でも、でも・・・。
『私は、私はまだ伝えてない!!・・・・・・君!!』
 声にはならない心の叫び。最後に叫んだのは少年の名だったのか?
 そして、裁きの黒い剣は振り下ろされた。

 だれも動けなかった。「死」の一文字が皆の脳裏を過ぎる。
 ・・・ただ一人を除いては。
 ガオンッツ!!
 すさまじい音がした。鉄と鉄とがぶつかり合う激しい音。火花が散っている。二人の男の間に。
 朱塗りの槍を手にルリカを救ったその男は、少年の仲間であった。ケイジだ。
 全身のすべての筋肉を最大限まで膨れ上がらせ、巨大な剣を槍で受け止めている。
 だが、その圧倒的なまでの力にいったい何時までもつかはわからない。
「どうしたというのだD!!いつものお前らしくないではないか…いったい何が」
「ごあああああああああああああっ!!」
 仲間の必死の問いかけも空しく、Dは咆哮するとさらに力を込めケイジを弾き飛ばした。
ドガンッ!!
 空をケイジの体が舞い、激しく壁に打ちつけられる。壁は当然の如く粉粉になってしまった。
「くう…」
 なんとか受け身をとり、壁の残骸の中から身を起こすケイジ。凄まじい力だ。真正面からではたとえケイジでも歯が立たない。だが今の一合の間にとりあえずの目的は果たした。
 もはや戦意喪失し、普段のかわいらしい少女に戻ったルリカをオアンが助け出している。
 あとは、そう自分達の大切な仲間を、あの明るい少年を元に戻すだけだ。
「あれが、J月殿がいっていたスーパーベルセルクなのか?だが、あれでは唯の獣だ…。いったいどうすれば…」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
 Dが三度吠える。あれこれ考えている時間はないようだ。
 ケイジは決意する。少年を絶対に救い出す事を。失いかけた絆を取り戻す事を。
「待っていろD!拙者達がきっと元に戻してみせる!!そして一緒に旅を続けるのだ、大切な人達のためにも!!絶対に!!」
 ロンギヌスの朱槍にさらに力を込める。そして走り出す。黒き獣と化した少年へ向かって…。


第二十五回「ケイジ、決断!」
1998/11/10
ひあかむにゅうちゃれんじゃあ XYZ
 ケイジは再びD、いや、スーパーベルセルクと対持した。
(きゃつより先に動かなければ)
 やられる・・・。
 そう思いケイジはベルセルクに向かって走り出した。
 ベルセルクも同じくケイジに向かって走り出す。

ドガァ、ギャン、・・・。

 激しく撃ち合ってる最中、ケイジはベルセルクの様子がおかしいことを感じ始めた。
(おかしい、きゃつの力が弱くなっている?スピードも切れもだんだん落ちている・・・。)
 そう思いつつも少しでも気を抜けばやられる。ケイジとベルセルクは終わる事の無い様な打ち合いを繰り広げた。
 ベルセルクはパワーだけの戦士ではなかった。スピードも桁外れにあった。超一流の剣士でも一瞬で倒す事が出来る、そんな化け物じみた能力を持っていた。

 対するケイジは、パワーはベルセルクより劣っていたがそのスピードはベルセルクを上回っていた。そしてロンギヌスの朱槍で相手のパワーを反らしつつ、反撃の一撃を打ち込んでいった。

 どれぐらい撃ち合っていただろう。決定打を与えられないまま、両者の疲労が見え始めた頃、両者の動きが、時が、空気が、何もかもが止まったかに見えた。

 永遠とも思われる瞬間の後、両者が同時に魂心の一撃を放った!
ドギャァァァァァァァァン!
 それまでとは比べ物にならないほどの激しい金属音がこだまする。両者はその反動で大きく間合いを取りにらみ合いとなった。

(なるほど、先程のルリカ殿のダメージが効いているでござるな。しかし、拙者もそろそろ・・・。)
 視界に人は居ない。皆避難したのだろう。周りの気配を探ってもだれか在る感じはない。
(ここは、勝負に出るでござるか。)
 そう決めるとケイジはベルセルクに向かってロンギヌスの朱槍を投げつけた。
と同時にベルセルクに向かって走り出す。
 ベルセルクは槍を半歩ほどの動きでかわし、ケイジに向かって剣を放つ。
(かかった!)
 胸中でつぶやきつつ、ケイジは囁くように叫んだ。
「我は踊る○の楼閣」
 ケイジがつぶやいた瞬間、ケイジの体はベルセルクの剣の間合いのぎりぎり届かないところに転移していた。ベルセルクの剣が、空振りして、遠くへ離れる・・・。
 その隙にケイジは、ほとんど顔が触れるほど、ベルセルクに接近した。
 ケイジは、ぽんと、相手の脇腹に左拳を押し当てた。強くもなく、ただ触れさせただけである。
 とっさにベルセルクが後ろに逃げようとした。その瞬間・・・。
 ケイジの足元で火薬が破裂するような音が鳴り響いた。そして、後ろに飛びのきかけていたベルセルクは壁までふっとばされた。その期を逃さずケイジが一気に間合いを詰め、先程投げた時、壁に刺さったままのロンギヌスの朱槍の柄で、ベルセルクの頚動脈を打ち、気絶させた。
 それは、この闘いの終わりであった。

「フ~。何とか一段落ついたでござるな。しかしDをどうすれば・・」
「うそー、あなたこの化け物に勝っちゃったの!」
 振り返ると、ルリカとオアン店長がやってきた。ベルセルクとの勝負がつき安全と思ってやってきたのだろう。
 ケイジは闘いの疲労を隠そうともせず、何時に無く厳しい口調で言った。
「ルリカ殿、Dを、仲間を化け物と呼ぶのは失礼でござる。」
「ああっ、ごめんなさい。」
「しかし、どうやったら元に戻るのかね~。」
「そうでござるな」
「そうだねえ」
などと話していると、ベルセルクの体がどんどん縮んでいき、D少年の形に戻った。
「ど、どうなってるでござるか?」
「わ、わかんないわよ」
「とりあえず事務所に運んで寝かせてあげましょ」
「それは有り難い、感謝いたすでござる」
 ケイジはD少年に自分の上着をかけ起こさないようにそうっと事務所に運んでいった。 Dをベッドに寝かせた後、そのままケイジは床に倒れた。そして死んだように眠った。その寝顔は穏やかだった。


第二十六話「閑話休題~そのころ~」 1999/1/1 JuJu


「僕は要らない子供なんだ…」

ただっ広い空間、独特の匂い、窓から微かに差し込むもの憂げな陽光、そこは俗に体育館と呼ばれる場所。
そして、その中心に置かれているたった一つのパイプ椅子。そこに座っている一人の少年は、まるで世界の理不尽から己の身を守るかのように頭を抱え、体を折り曲げて悩んでいた。
「僕なんか、きっと必要ないんだ。この世界に居る価値なんて無いんだ」
そこに在るのは絶望と悲しみ、そして言いようの無い寂しさ。彼のほかには誰も居ない。彼の独白のつぶやきでさえハッキリとした音になる。音はその広い空間に吸い込まれるように溶けては消える。

――――ドウシテソンナ事言ウノ?

どこからともなく、透き通った氷のように清廉な、けれど、どこか温かく柔らかな聞き覚えのある女性の声。
「だって、誰も僕の事見てくれないんだ。優しくしてくれないんだ。……誰も、僕の出番なんて期待してないんだ」

――――ソンナコトナイヨ

「嘘だ!だったらどうして僕は話に絡めないのさ!それぞれの旅路編に入ってからは出番も無いんだよ!台詞すらないんだよ!!……みんな、僕の事なんて忘れてしまったんだ。僕がいても役に立たないから。……だから、僕は要らない子供なんだ」
胸に溜まっていたものを全て吐き出すかのように、少年――チュウニは叫んだ。それは魂の慟哭だった。

――――ソレハ君ガソウ思イ込ンデイルダケ。コノ世界ハ君ガ思ッテイルホド冷タクハナイヨ

「……みんな、僕の事嫌いじゃないのかな。僕はここに居てもいいのかな。ここに居るだけの価値があるのかな……」

――――ダッタラ君ハナゼもんがーニナルノ?

「モンガーになればみんな僕を見てくれるんだ。そりゃあ、中には『なにそれ?』とか『ママーあれ何?ああっケンちゃん、見ちゃいけません!』みたいな目で見る人もいるけど…でも見てくれるんだ。笑いかけて…これも若干意味が違うかもしれないけど…くれるんだ。…優しくしてくれるんだ」

――――君ハ何ヲ願ウノ?何ヲ、望ムノ?

「この世界にいてもいいだけの価値が欲しい!出番が欲しい!台詞が欲しい!もっと活躍したい!そして…」

――――ソシテ?

「ユウとラブラブになりたい!!!」
今までにないくらいにキラキラと顔を輝かせ叫ぶチュウニの背後に、いつのまにかケイジとDが佇んでいた。そして異口同音に小さく、けれどはっきりと呟く。

「……無理でござるな(ボソッ)」「……無理だ(さらにボソボソッ)」

























「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」







第二十六話


閑話休題~そのころ~







自分を呼ぶ声に目覚めた時、初め目に映ったものは見慣れない天井。頭がひどく重い。なにか悪い夢を見ていたような気がするが、思い出す事はかなわなかった。
ここは何処だろう、と記憶の糸を辿る間もなく、元気な少女の声が降りかかっってくる。
「ようやくお目覚めね、チュウニ」
「あれ、カホ……?」
声の主は大阪で出会ったセンチストーンを持つ少女、森井カホ。
急速に覚醒する意識。そして今までの事を思い出す。そう、チュウニはケイジたちと別れた後、カホの特訓を受けるため、彼女の家の客間を借りて居候していたのだ。
「あれ、カホ……?じゃないわよ、まったく。さ、朝の特訓の時間だよ。ほら起きた起きた。…もう、いつも私が起こさなきゃ起きないんだから」
「ゴメン…」
しょうがないんだから、という顔のカホを上目づかいに見ながら思わず謝ってしまうチュウニ。そして彼はある「重大な事」に気付くと、ガバッと布団を跳ね上げて起き上がる。
「!!!!……僕、しゃべってる…台詞が…ある。……やった…やったよ!出番だ!僕は自分を好きになれるかもしれない!僕はここに居たい!ここに居てもいいんだ!」
チュウニの耳だけにたくさんの拍手と「おめでとう」という声が聞こえてきた。
「……ありがとう。……あれカホ?」
どこかイっちゃてる顔で訳の分からない事をほざいていたチュウニは、カホが石のように固まってるのに気付いて我に返った。その視線はチュウニのある部分に注がれている。
「………………」
しばしの沈黙。そして……、
「いぃやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!エッチ、馬鹿、変態!!!しんじらぁんない!!!」
清々しい朝、今日も今日とて、大阪のご町内にハリセンの素晴らしく透き通った音が響き渡った。


そのころ、第三新東京市BBS本部で、顔を渋らせ悩みぬく二人の男…いわずもがなのM島とJ月。
「問題だな……」
「ああ、最優先事項だ」
恐ろしく真剣な顔で言葉を交わす二人。目の前の事態にどう対処すればいいのか、二人の思考回路は今、最大限に機能している。
「M島、お前は確か昨日3匹だったな」
「何の事かな…お前こそおやつのせんべい一枚多く食べただろう?」
二人の視線がぶつかり火花が散る。
目前に差し迫った事態…「朝食の余っためざし一匹の獲得権」をめぐって二人の男は激しくぶつかり合う。
「今日ばかりは譲れん!!私がいただく!!」
「ふっ、まだまだ甘いなJ月!!」
目にも止まらぬ速さで繰り出される箸と箸の応酬。二人の卑しい…もとい激しい戦いは、いつのまにか進入したドラ猫が問題のブツをちょろまかした事に気がつくまで続けられた。


――――――Episode26: Don't you forget ?――――――


「はっ、はっ、はっ、はっ」「ぜえ、ぜえ、ぜえ、ぜえ」
2人はかれこれ2時間近く走っていた。いつもは途中で休憩が入るのだか、今日は休みなしだ。しかも今まで終始無言である。理由は、チュウニの顔に刻みつけられたハリセンの跡が物語っている。
(しょうがないじゃないか…朝なんだから…)
息も絶え絶えにそんな事を考えるチュウニだったが、今のカホに言い訳できるほどの勇気はない。しかもここで立ち止まったら、何が起こるかわからないので、どんなに苦しくても止まれないのだ。おそらく、立ち止まった先に待っているのは『滅殺』の二文字だろう。そして派手な赤いスポーツカーに乗った美形の小麦色の肌をしたお兄さんがやってきて「世界の果てを見せてあげよう」とかなんとか言うに違いない。
などと別次元にイッていると急にカホが立ち止まった。チュウニも慌てて走るのを止める。
「ふう…よくついてこれたね。感心感心」
もはや全身汗だくで立つこともままならず、言葉無く空気を貪っているチュウニとは対照的に、カホはまるで風呂上がりのような爽やかさだ。そりゃもうこれからフルーツ牛乳を腰に手を当てて一気飲みしてもおかしくないほどに。
「ま、その根性に免じて今朝の事は許してあげる」
と、少し顔を赤らめながら言うカホの言葉に、チュウニは生命の危機を逃れた安心感と疲労からその場にへたり込んでしまう。だが彼はまだ知らない、自己防衛のために発揮したその根性が、己を更に過酷なる運命へと誘う事を……。

少しの休憩の後、二人がやってきたのはご近所の児童公園だった。時刻は朝8時。お子様達は今でも御愛寵されている長寿番組「ポン〇ッキーズえくせれんと」にくぎづけのせいか、誰も姿をあらわさない。今日も大阪の空は快晴だ。絶好の特訓日和である。
「さて、結構体力もついてきた事だし、そろそろチュウニも次の段階に入ってもいい頃かな」
あくまでも爽やかに、そして憎らしいほどかわいらしい顔でそう切り出すカホ。チュウニはその爽やかさが逆に空恐ろしかった。今までですら地獄のような特訓(あくまでもチュウニの主観である)を受けてきたのだ。これからいったいどんな試練が待っているのか不安にならない方がおかしい。
ちなみに、今までの特訓をあげると「朝夕合計4時間ランニング」「腕立て・腹筋・背筋・スクワット各200回を3セット」「100メートルダッシュ50本」「お好み焼き屋おたふくの手伝い(居候のため強制的に手伝わされている)」などがあげられる。もちろん、一日のうちに全てこなすのである。今までろくに運動らしい運動をしてこなかったチュウニにとってはまさに地獄であった。それでも耐えてこれたのは「もっと出番が欲しい、活躍したい、ユウに振り返ってもらいたい、僕がこの話の主人公なんだ!…きっと……たぶん」という思いゆえであろう。
「つ、次の段階?」
「そ。あなた強くなりたいんでしょう?せやったらやっぱり格闘技や!この浪花の修練闘士『疾風の仔鹿(バンビ・ザ・ゲイル)』こと森井カホさんが、日ごろのお好み焼き修行をこなすこの腕と陸上で鍛えた強靭な脚力をもって編み出した格闘技『オタフク流交殺法』を伝授してあげるで!!」
恐る恐る問い掛けたチュウニに、瞳に炎を宿しながら拳を握り締め熱弁する浪花の修練闘士カホ。(注;途中で妙な関西弁になったのは作者の好みで特に理由はありません)
「まあ、まずは『百聞は一見にしかず』ということで、お手本を見せたげる」
と、カホはすたすたと公園の一角にある大きな岩のところまで歩いて行く。なんで児童公園にこんな岩があるんだろうなどと心の中で突っ込みを入れつつ、内心かなりビビリまっくているチュウニも続いた。
「それじゃあ、よっく見ててね」
そう言うとカホは自分の身長よりも明らかに大きな岩に向かって構えをとる。
(いくらなんでも、あの岩を砕くなんて無理だよ…)
しかし、彼はその判断が激甘だったとすぐに思い知らされる事になる。そりゃもう甘かった。コージーコーナーのジャンボシュークリームよりも。
「オタフク流交殺法表技!!平羅(へら)ーーーー!!」
ずがあああん!!という轟音と共に大岩はその中心から縦に切断される。カホが放った右手刀によって、まるでへらに切り裂かれるお好み焼きのように容易く岩はかち割られていた。
間髪入れずにカホは技を繰り出す。
「オタフク流交殺法影門死殺技!!刃璃閃(はりせん)ーーーー!!」
どぐわああああん!!という爆音を生み出したのは、カホのカモシカのような足が繰り出した横薙ぎ回し蹴りの一閃 。その蹴りの速さはビートた〇しが所ジョ〇ジに打ち込むハリセンのスピードを軽く凌駕していた、と後に目撃者の少年Tは語っている。
岩はもう見事なまでに粉砕されていた。しかし、ノリノリのカホの攻撃はとどまることを知らない。駄目押しとばかりに最後の技が炸裂する。
「我は無敵なり!おたふくのお好み焼きに敵うもの無し!我が一撃は無敵なり!!」
それは俗に「お好み言語」と呼ばれる自己暗示術である。自分の精神を一種の催眠状態にすることで、潜在能力を引き出すというお好み焼き世界に伝わる極秘奥義なのだ!!(出典『これで貴方もお好みマスター!初級編:著者・森井トメ』より)
「オタフク流交殺法影門最源流死殺技!!!通天閣棲経死矢流(つうてんかくすぺしゃる)!!!!」
それはもう音ではなく、光の洪水だった。チュウニは眼前で何が起こっているのかさえ認識できない。気がついた時には、そこに「岩」と呼べるものは存在しなかった。あるのは同体積の「砂」だけであった。まさに「灰塵へと帰した」のである。おそるべし「オタフク流交殺法」そして「疾風の仔鹿」!『二重の極み』を習得したともっぱら評判の「名古屋の蒼き粉砕者・山本ルリカ」も真っ青だ。
「よし、まあこんなところかな。どう?結構使えそうでしょ」
にこやかに語りかけるカホの顔には汗の一つも浮かんでいない。チュウニは顔面蒼白、言葉も無くただカクカクと首を縦に振るしかなかった。
「うんそれじゃあ、さっそく特訓を始めよっか。まずは組み手からはじめよう。『習うより慣れろ』ってよく言うしね」
「………へ?」
あんまりといえばあんまりのお言葉。ど素人の少年が、少女とは言え大岩を素手で粉砕するほどの実力を秘めた格闘家と組み手してかなうわけがない。下手をすれば即『滅殺』である。たとえるなら「ミジンコVSグリズリー」。
「いいいいいい、いやあ、やっぱり、ぼ、ぼ、僕にはまだ早いような気がするなあ。うん。そ、そ、そうだもうちょっと走った方がいいみたいだ。そうしよう!」
何とか話の方向性を変えようと足掻く哀れな少年。ビビリはいりまくりで歯の根があっていない。そんなチュウニを傍目にまさしく天使の笑顔でカホは彼を諭す。
「いやだなあ、そんなに怖がる事ないよ。本気でするわけ無いじゃない。もちろん手加減するって」
「そ、そうだよね。あはははは、ナニ言ってんだろ僕」
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、不幸にも(幸運にも?)チュウニは聞いてしまった。少女のかすかな呟きを。
「ふふふ、久しぶりやなぁ、人間相手の組み手…この間動物園でライオン相手にした時はちょおっとやり過ぎて看守さんに大目玉やったもんなぁ…ふふ腕が鳴るわぁ(ブツブツ)」
ずざざざざざざざざざざざざざああああああああ!!!
おもわず飛び退いてカホから距離をとってしまうチュウニ。もはや疑う余地はない。ここで逃げなければ待っているのは……。
目の前の狩猟者から逃れようとくるりと背を向け走り出そうとするが、そうは問屋がおろさない。いつのまにか肩をがっちりと押さえている可愛らしいふたつの手。
「ちょお、まちい。せっかくの獲物…じゃなかった、弟子一号をタダで返すなんて浪花っ子の意地にかけて出来んわ。きっちり、特訓してやるさかい。だーいじょうぶ。根性、根性、根性よ!」
などとちょっと据わった目で、まるで「とき〇モの虹☆さん」(いくらなんでもそりゃヤバイだろ)みたいな事をのたまうカホ。まさしく蛇に睨まれたカエルのように微動だに出来ないチュウニ。まさしく絶体絶命のピンチ。ああ、哀れ、この薄幸の少年はここで灰塵と帰す運命なのか?
だが、天から垂らされるはずのクモの糸は意外なところからやってきた。
「あれ、カホちゃんやないか?なんや、また朝の練習か。精が出るなあ」
そこに現れたのはママチャリに乗った何処にでもいそうな一人の親父さんだった。
「あっ、お隣の山田さん(仮名)。おはようございます」
今までの気迫は何処へやら、すっかりいつもの調子に戻った少女はにこやかに挨拶を交わす。隣ではチュウニがヘタヘタッと力なく座り込んでいる。どうやら最悪の事態は回避できたらしい。その場で少々雑談する二人。
「それじゃ、お昼にまた店によらしてもらうわ。あんまり無理せんと、自然破壊も程々にな」
といってチリンチリンとママチャリに乗って去っていく山田さん(仮名)。だが、途中でやおら立ち止まると振り返り、チュウニに向かって言葉をかける。
「坊主!!………………達者でな」
その眼の端には何故かキラリと輝くものが。そして隣ではまるで某特務機関総司令のように唇の端を上げ「にやり」と笑う少女の姿。

「いやだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


何処までも蒼く突き抜けた空に不幸な子羊ちゃんの泣き声が響き渡った。
所詮クモの糸は途中でぷつりと切れるが運命(さだめ)。
チュウニはこの時ほど早くユウやケイジたちと合流したいと思った事はなかったという。


そのころ、太平洋上では、エミル救出のため沖縄へと向かう維力は、白鳥の乗り物に乗った二人のヒゲズラの青年達と一次接触していたそうだ。
そしてこの物語影の主役七瀬ユウはというと、ふらりと降りた無人駅の木陰でお昼寝タイムに入っていたという。
「う、ん…………ふっ、今日も、平和だね………むにゃむにゃ」
と寝言を言ったかどうかは定かではない。

時に西暦20XX年。
夏にしては穏やかな日差しの、いつになく静かなある一日の出来事であった。


第二十七回「ミステイク」
1999/1/10
一夢庵

「うううん....」Dは目を醒ました。
眼前には白い天井が広がる。どうやら自分は寝ていたらしい....それだけは理解できた。
「ウッ!!」
全身が痛む、そして疲労感からか鉛のように重い。指一本動かすことも難儀に感じられた。
(オラ...何故、ココにいるんだ?.....)
首だけはかろうじて動かせるようだ....Dは辺りを見回した。
(しかし...何処だろう、ココ....病院のみてぇだけど...)
白い壁、白い天井、カーテンに仕切られたベッド、机の上に置かれた籠一杯のフルーツ.....
総ての記号がDのおぼろげな推測を確信へと結びつけた。
(そういえば、オラ...ルリカと戦っていたんだった....ルリカの気弾の爆裂を受けて....
その後は......)Dは記憶の糸をたぐり寄せるかのごと暫く考え込んだ。しかし....
(....ダメだ....その後は....思い出せねぇ....)
記憶の糸はそこで途切れていた。

ガチャ
正面のドアが開いた。
「おっ、D殿、気が付いたようだな」
ケイジが入ってきた。その後に緑夫が続く。
「えっ、ホント?!」二人の間を割るようにルリカが入ってきた。
「よかった。もう...結構心配したんだからね。」
「もう大丈夫なの? 痛いところ無い? 何時目が覚めたの?」
ルリカの機関銃のような質問攻めにDは何も応えられずただ呆然とするしかなかった。
「あらあら、ルリカちゃん。そんなに一度に色々聞いたらD君、訳わかんなくなっちゃうわよ」オアン店長が続いて入ってきた。
「それにしても随分経ったわねぇ、あれからもう八日よ」
「あれから八日って....?」Dは問いかけた。
「やだ、覚えてないの? あれだけ暴れておいて。キミが変身してから大変だったのよ。ケイジ君が止めてくれたからよかったんだけど.....」
「事務所にキミを運んだんだけどぜ~んぜん目醒まさないから病院に運んだってワケ....それから今日で八日ってことよ。」
(....?)
Dはまるで他人事のようにオアン店長の話を聞いていた。
話を聞き直すこと幾数回、Dはようやく事の経緯を理解した。そして、思い出したかのように尋ねた。
「そういやぁ、ルリカとの勝負はどうなったんだ?」
「あのねぇ、あんなに滅茶苦茶になっちゃったら勝負も何もあったもんじゃ....」
「悔しいけど....私の負けだよね....」横にいたルリカが呟いた。
「だって.....変身したD君に驚いちゃって動けなかったところを.....ケイジ君に助け出されて.....武舞台から出ちゃったから.....」
「でも、アレはしょうがないんじゃないの? あのままだったらルリカちゃんどうなってたか....」
オアン店長がフォローするも、ルリカはそれを振り払うように続けた。
「いいよ、やっぱり勝負はハッキリさせなきゃ。変身したのは「そんなのアリっ?!」って感じだ けど負けは負けだもん。そう、私の負け。負け、負け、負け、負け。ハイ、これで決まりっ!!
 あースッキリした。」
半ばヤケクソ気味にルリカは言った。
「でも、このままじゃ<名古屋の水龍>の名がすたるなぁ。ねぇ、治ったらもう一度勝負しようよ。 あっ、でも今度は変身はナシだからね。」
「おぅ。オラもオメェときっちり決着つけてぇからな」二人は笑顔で約束を交わした。

「実はオラもオメェに頼みてぇことがあるだけど....」
Dは確信していた。あの強烈なせつなさウェーブからルリカこそがセンチストーンの持ち主であることを。
「オメェが(持っているセンチストーンが)必要なんだ。また会いてぇから連絡先教えてくれねぇかな?」
「えっ?!」
Dの突然の申し出にルリカは驚いた。
「う~んと、私強い男の子って嫌いじゃないけど...いきなり彼氏っていうのもちょっと....
 あっ、でも友達っていうならいいよ。」
ルリカは手帳から名刺を取り出した
「はい、これ連絡先。対戦もいいけど今度は一緒に遊びに行こうよ。」
「あ~っ! いっけないっ! もうバイト行かなくっちゃ。じゃあ電話待ってるからね。バーイ」
照れくさそうにルリカは病室を出ていった。

「ルリカ殿、なにやら楽しげでござったな」
いつの間にか病室を出ていたケイジやオアン店長らが戻ってきた。
「ルリカちゃん、ルンルンしながら飛び出していったわよ。何かあったんでしょ?」
ケイジに続いてオアン店長が聞いてきた。
「へっ?! オラ、ただセンチストーンの事頼んだだけだけど....」
「そーおー? 何かアヤシイわねぇ、お二人さん。」
(...あれっ? そういえばオラ、センチストーンって言ったかなぁ?.....ま、いいか。)
Dは気づいていなかった。言葉のアヤとはいえ、自分の言ったことの意味を....

「どうでもいいけどよ、いい加減この街でねぇか? パチンコは好きだけど名古屋の街にはもう飽きたからな」
ケイジの脇にいた緑夫が切り出した。
「そうしてぇのは山々なんだけど....体が思うように動かねぇんだ。」
「そりゃそうよ。お医者さんが一ヶ月は入院してなきゃダメっだって言ってた....」
「心・配・御無用」オアンの説明にケイジが突然割って入った
「BBS特製スーパー デリシャス ゴールデン マムシドリンクZ turbo。先程BBS本部から早馬で届けさせた。さぁ、飲むがよい」
「おほ、ありがてぇ~。ケイジ、飲ませてくんねぇか? 腕も動かせねぇんだ。」
Dはケイジの介添えでドリンクを飲んだ。
「うぇ~、相変わらずマジィなぁ~。でも効くぅ~、全身から火吹くみてぇに力がわき上がってきたぞ」
Dはベッドからバック転を決めながら飛び出した。
「うそみたい~っ!!」
Dのまさかの快癒にオアン店長はただ驚くしかなかった。
「ふん、やれやれ。行くぜ」
「オアン殿、色々世話になり申した。」
「いいのよ。こっちもアンタ達に会えて楽しかったわ。また名古屋に遊びにいらっしゃいな。」
「おぅ、ぜってぇまた遊びに来るからな。じゃあなっ!」
オアン店長に見送られ、ケイジ, D, 緑夫の三人は再びセンチストーン探索へと旅立っていった。



同じ頃、維力はイルカでの長き航海を終え夜明けの海岸に上陸していた。
(新横須賀を出て二週間か....それにしても暑い....ぬっ?!)
維力は付近に人の気配を感じ、木の陰に隠れた。
(敵か...違うな、武装していないようだ。島の人間か?)
しばし思索する維力。そして決断した。
(警備兵が化けているのかもしれないが...まあいい、そうと解れば倒すまで。エミルの居所を吐かせねばならんからな....)
島民らしき人物が通り過ぎた所を見計らって維力は後ろから羽交い締めにした。
「Wow!! What?!」
「おい、この島にエミルという娘が来ているはずだ。居場所を教えろ。」
(以下日本語訳)
「オメェ、ナニするだっ!!」
「とぼけるな、隠しても為にならんぞ」
「ワスは何も知らねぇだ。」
「ふざけるな、お前は警備兵だろうがっ!」
「あん? オメェ、何言ってるだか?」
アロハシャツを着た島民らしき男はいぶかしげに維力を見た。
「ここはハワイのオアフ島だぁ。オメェさ何か勘違いしてねぇか?」
「へっ? 」
驚いた拍子に維力は男を放した。
(道理で...沖縄にしては暑いすぎると思った.....)
維力はまるで熟れたトマトのように赤面し、しどろもどろになりながら男に尋ねた
「あっ、いやっ、はっははは....。こ、これは失礼。
 す、すまんが....沖縄はどどどっちに行けばよいのでしょうか?....なんてね。」
「沖縄? オキナワのことけ? それだったら西のほうでねぇか?」
「すまん、恩に着る。世話になったな。さらば。」
呆れる男を尻目に維力は逃げるようにその場を立ち去り、再びイルカに乗って沖縄を目指すべく旅路に着いた....
(なんだかなぁ....名古屋編お終い...か?)


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